世界各国における道徳教育は、今日に至るまで山積するさまざまな課題をかかえています。それら道徳教育をめぐる諸問題は多様な 価値観が複雑にかかわるために、これを解決する糸口を見つけることは研究者にとってもまた現場の教師にとっても容易なことではありません。こうした事情は 日本の戦後の道徳教育についても例外ではありません。特に日本の場合、「道徳の時間」の特設以来の不幸なイデオロギー対立の歴史もあって、道徳教育そのものの基底や全体像をめぐる根本的で学的な問題提起を避け、指導内容や方法に矮小化した単なる技術面での改良に終始する傾向が強かったと言えます。さらに は、日本における最近の道徳教育の形骸化は、衆目の一致するところです。
そのような折りに、道徳の「教科化」が政府主導で打ち出されました。これを皮切りに今後は、さまざまな時代的な要請が道徳教育界になされることが予想され ます。しかしながら、そうした諸要請に賛否いずれの立場をとるにせよ、正面から議論できる場が道徳教育の世界には欠落しています。これまでの道徳教育関連 の学会は、「道徳」の授業をめぐる技術的工夫のみに没頭し、道徳や道徳教育についての抜本的な議論を回避してきたからです。特に、道徳教育に対して学問的 基盤を提供する道徳哲学(倫理学)を射程に入れつつ、思想信条や価値観の相違を超えて、現在および将来の道徳教育の在り方を根本的に議論する組織が日本に は存在しません。哲学・倫理学のアカデミズムの側も、道徳教育をはじめ初等・中等教育の現場に対して殊更無関心を決め込んでいた時期がありました。これに は上述のイデオロギー対立も一因であったように思われます。しかしながら、最近は哲学・倫理学の学会においても初等・中等教育の現場に対する貢献可能性に 対する問題意識、特に道徳教育についての関心が高まりつつあります。
そこで、学問としての道徳教育学を飛躍的に発展させるべく、特に哲学・倫理学と連携することにより、道徳教育についての忌憚のない議論の場として、学校を はじめ、家庭や地域社会における道徳教育の実際に貢献できる学会を設立するべき時期に来ていると考えております。学会の主要な事業としては、大会の開催と 機関誌の発行などを考えております。哲学・倫理学・教育学の世界におけるアカデミックな研究者のみならず、小・中・高等学校の教職員、幼稚園・保育所の関 係者、家庭教育関係者等多くの関係者が本学会に参集し、研究を深めていくことを期待しております。
2014年5月3日
設立世話人
代表 桑原 直己 (筑波大学人文社会系教授)
副代表 吉田 武男 (筑波大学人間系教授)